[well] drawing text

[たった一日で町を作った大男にきいた話]

1
小さいときは小さかった?
わたしは母の大きさだった 最初からずっと
母の皮をやぶって ぐるりと裏返って はいだしてきたのさ
そうしてお母さんは どうなったの?
裏返って 戻っていったよ
わたしの中に

2
自分の足元をめくってみろよと大男は指さす
ここにあるのだ こんなふうにめくって見るのだ この世界を
視線をかたくすると 世界は滲みはじめる
僕はかゆくなった目の端をこすってみる
大男が笑った

3
水たちが変化していく様子をながめる
僕の膝から下は 別の力運動の楽しみを試すかのように
せわしなく動いてた
上腿と下肢の時間は 違うということ

4
吊されるさえずりの形
吊される小雨覆 中雨覆 大雨覆
小さな頭すら 落としてきてしまったんだよ
はりつけられた指標のような 世界の部品

5
夜の端っこの とがったところをめくるんだよ そうするとね
どんどん どんどん 小さくなるんだ
そうして世界ができあがる

6
その大男は こう言いました
自分のあたまの中は ひっくり返っていて
イキモノは降ってくるんだ ぼとぼとと 大粒の雨のようにね
雨は 大男の爪の間にたまり
そして小さくうつって見える町の様子

7
ぶつかりあうものは 変化してゆくんだ
子供の歯並びのようにね
じゃあ矯正することができるものなんだね
針金のかちかちいう味
希望のかけらは きっとそんな味がすることだろう

8
くうしゃり 卵の割れる音がするだって
孵らないんですものって
<しろたまご>は頭を掻く
水に濡れた翼角のかすかな匂いで
町の終わりを予感させる

9
ほんとうのことは 拡大された部分のなかにとじこめられている
放り出す+投げ出す 世界というかたちに向けて
ぽいっと井戸の様子をうかがうように 大男は区切ってみせる
つながるの?
すべてはつながる 終わりに向かって

10
降ってくる 降ってくる 小さなおまじないの箱
ぴったりと閉じ合わされた蓋
その合わせ目から 残りのまっとうできなかった個の時間がもれだしてくる
だから 綿が必要なんだ
そう言って 大男は綿の種を蒔く

11
<小さな頭>に誘われて 頭屋を覗いた
棚の境界線が 小さく振動して
ぶるるん ぶるるん と ぶれてゆく
薄くにぶく揺らされてゆく様子
孵卵器のように

12
なんにもない場所にたつんだ
なんにもない場所? なんてあるの?
ここに ここに
踏みつけたそこから水が滲みだして
大男のその重さで海になる

13
小さな破裂音の会話
耳元でまだうまれていないのよ 卵でも拾いに行かない?
めくったその端から
こぼれ落ちた屑が鼓膜に落ちてゆく

14
終わることはないのよ
いくつもいくつも 生みだすのだから
<小さな頭>は動かない瞳で言う


D.D Stadt [ well ] 1991 より

+

「ひとを作るにはね 2日もかかるんだよ」 記詩が投げかけてくれる言葉に感謝をこめて