マーキュロの虚をつく美しさ

サンゴのかけらや樹木の種子を何十、何百と拾い集めてきては数センチ四方の小さな箱に収める「collection」シリーズで知られる。大森は自分の興味を引くモノの採集を「出会い」ととらえ、採集した日付、箱に収めた日付けを示すシールを貼ってその証とする。大森が小箱にこだわるようになったのは中学時代からという。授業で生物を学び、わずか5センチ四方の土の中に数えきれないほどの生物が存在することを知って強い衝撃を受けた。その小さな空間に彼女が出会ったモノを収納する行為は、そのモノの価値を見出してあるべき場所へ収めることを意味している。作家がもう一つこだわっているのがマーキュロクローム(赤チンキ)である。インスタレーション作品やドローイングの彩色、自作のサインには赤チンキを使う。「絵具は閉鎖的な感じがする」といい、日常的な素材を使って意表をつく美しさを表現している。初個展は大学院在学中の89年。92年にはセゾン現代美術館主催の美術展「ART TODAY」に選ばれて出品。若手が活躍する現代美術の分野でも早熟といえるだろう。
「MATERIAL BALANCE<ALCOVE’93>」をテーマに立体作品20点が並んだ。白い石膏で四角いくぼみアルコーブを造り、赤チンキで彩色した生ゴムを折り畳んだり吊るしたりして収納して在る。前回の個展でも亜鉛板を赤く彩色したインスタレーション作品を展示したが、同じ赤チンキでも地の素材が違うために全く違う色彩に仕上がった。同時に「収納=あるべき場所に配置する」という考察もなされており、大森が持つ二つのこだわりを統合する試みがなされている。インテリア製図に使う3次元目盛りの方眼紙に赤チンキで彩色したドローイング数十点も出展された。

にっけいあーと 1993/12