july [in part]

価値のないものに心惹かれる


以前 オランダの切手屋で
子供だましのような クズ切手の箱を買った
葉書や封筒から切り取られたままの
使用済み切手が ぎゅうぎゅうと詰め込まれている


一応 箱にかけられたヒモには
蝋で封印なぞされているので
どんな切手が 入ってるかはよくわからない
東ドイツの粗末な切手が見え隠れしていた


何年もあとにその箱をあけて
クズ切手をならべて ながめた
東の国は とうになく なんだか
忘れ物をぼんやり探すような視線で


ひっくり返すと切り取られたカードの絵柄が
でてくる  世界をめくるように
ひとつの部分/だれかの部分/写真の誰かは
確かに存在していたはずなのだ
どこかわからない 風景の断片/ものの断片


名前は?
この人の生きていた時間のことを
想像してみる
そんな風に視線を留めてゆくと
この他愛のない紙片が
とても 大切なもののように思えてくる


そんなことが 私は好きなのだ