水晶の塔をさがして
展示作品の構成と解説にかえて
大森裕美子は、最近の発表では石膏を用いた小さな作品が中心であったが、本展に当たって、私は彼女に『material glance 物質のまなざし』を中心とした出品をお願いした。それが彼女のいくつかの作品のタイプの中でもっともユニークなものであると思っていたし、それが本展のテーマにもっとも見合うものであると確信したからである。結果、彼女のプランは3.6mx3.2mの金属製の展示台の上に石膏板を敷き詰め、その上に彼女が日々の生活の中で「出会った」モノを並べる、というものであった。その展示台には引き出しがつけられており、観賞の際に引き出して見るようになっている。その中には未だに並べられず乱雑に放り込まれたがらくたとおぼしきモノが無数に入っている。引き出しに納められた彼女の「大切なもの」は他人から見ればどうでもいいもの、がらくた同然のものであろうが、大森本人にとっては、自分の視線が物質として結晶化した、かけがえのないモノの集積である。私たちは大森の視線によって見いだされた小さな世界の集まりを垣間見ることになるだろう。また「size work」は、大森が会場下見のため初めて当館を訪れた3月に開催中であった「ゴッホ展」にて、挨拶パネルが掛けられていた場所と全く同じ場所に、同サイズのパネルを描けたものである。ある時のある景色を見いだしたそのまなざしの向け方を、その都度形にとどめようとする彼女の姿勢がここに現れている。
山口洋三(福岡県立美術館)